なぜあなたに苦しみがあるのか
聖書 ハバクク書3章17〜19節 ローマの信徒への手紙8章18〜25節
宝子牧師と私が東中通教会に来て4年目になりますが、既に30名もの方を天に送りました。人の死はご高齢であっても、つらく寂しいものです。まして若く幼い命を年上の者たちが見送らなければならない。これほど心を痛めることはありません。愛する者との別れが辛いのは、私たちにその先を見ることができないからです。突然その日が訪れてしまって、もう会えない。目にできない。そうして死の先に何が起こっているのか分からないままにされますと、今、生きることの意味も見失いそうになります。
聖書は悲嘆にくれる者たち、苦しむ者の声で溢れています。なぜ私に苦しみがあるのか。今日、読まれたハバクク書もそうです。ここで祈る者は、自分の感じる絶望を植物や動物が育たないことに重ねて吐き出します。
「いちじくの木に花は咲かず、ぶどうの枝は実をつけず、オリーブは収穫の期待を裏切り、田畑は食物を生ぜず、羊はおりから絶たれ、牛舎には牛がいなくなる。」
古代イスラエルの代表的な農作物が育たないことで、自分の生活がこの先、成り立っていかない深刻な挫折を味わっています。最後に「指揮者によって、伴奏付き」とありますから、これは歌です。花は咲かず、実らず、絶えて、いなくなる。絶望の歌です。いつの時代も私たちは考えます。一体、誰が悪いのかと。政治が悪いのか。社会が悪いのでしょうか。絶望の歌に、新約聖書からも伝道者パウロが被造物のうめきで応答します。
「被造物がすべて今日まで、共にうめき、共に産みの苦しみを味わっている」
言葉にできない苦しみを露わにしています。双方に共通する問いが持つ答えは何か。それは誰かの責任ではないということです。なぜ苦しみがあるのか。問いつつ、誰にも責任を負えるものではないと言います。
通常、悲惨な状況にあるのは、あなたが引き起こした、自己責任だと言われます。今の社会の大方の解決法です。
でも聖書はそう片付けない。私たちに、どうすることもできない悲惨さがあるのを認めます。しかも、この問題は人間だけのものではないと。植物や動物も育たない、被造物すべてが共にうめく。そんな全宇宙的に広がりを持つ苦しみに目を向けて、パウロは静かに口を開きます。
「被造物は虚無に服していますが、それは、自分の意志によるものではなく、服従させた方の意志によるもの」、つまり世界を創造された神の意志によると。この苦しみを与える真犯人は神だと言い切る。すると驚く言葉が続きます。
「同時に希望も持っています。」
私たち誰もが苦しみを避けたいと思う。にもかかわらず、パウロは苦しみが与えられるなら、希望も同時に持つと言うんです。世の人は、そんな救いは要らないと考えるでしょうか。でも、パウロは、この苦しみを共にするからこそ、神の近さを確信します。私たちは、キリストと共に苦しむことさえ与えられているって。神は世界が滅ぶままになさらず、必ず救い出す方です。現在の苦しみは取るに足りないものになります。
ある英国の牧師は、この箇所を険しい山道で突然現れる景勝地、それも多くの読者が足早に過ぎ去ってしまう絶景スポットだと言います。その小道は雑草が伸び放題で、息が切れるほどの上り坂ですが、突然、青空の広がる素晴らしい景色が広がっています。ここから神の救いのご計画を見渡せるからです。問題は見えたり、隠されたりしていますから、私たちに忍耐が求められていることです。パウロは、通常は互いに出会わない言葉を重ねていきます。現在の苦しみには、現されるはずの栄光を。被造物が虚無に服すことには、同時に希望を持つことを。滅びへの隷属には、栄光に輝く自由を。
そして、22節にたどり着く。被造物に共にあるうめきには、共にある産みの苦しみを。つまり、現在の苦しみは、無益な苦しみではないのです。産みの苦しみです。新しい命が産み出されるため味わう苦しみです。
「私たちは、このような希望によって救われています。」
それは目に見える希望ではなく、見えるのは現実の苦しみです。けれども、ここに深みがあるのです。この景色は見えたり隠されたりして、まるで木々の葉っぱの合間から、時折、光がこぼれ落ちてくる、木漏れ日のようなものです。私たちに近い方には苦しみが、奥の方に希望があります。この木漏れ日が私たちの人生の奥行きをつくりだす。何一つ苦しみのない道など、人が歩む生涯ではありません。どんなに先を見出せない時でも、決して今を生きる人生に無意味なことはない。私たちは目に見えない希望を忍耐して待ち望む者になります。
(聖霊降臨節第14主日礼拝 9月7日 牧師 片岡賢蔵)
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