持っているものでやり遂げよう
聖書 申命記26章1〜11節 コリントの信徒への手紙二8章1〜15節
もしかしたら、申命記は、とっつきにくい印象があるかもしれません。でも、戦争に敗れ、住むところも文化も失って、もがき苦しむ中、私たちは何者なのか、アイデンティティーを見出す希望の書として読まれてきたと聞いたらどうでしょうか。
国のかたちも神殿も滅んでしまったけれど、もう一度やり直そうと神に訊ね求めて、私たちのルーツが示されたのです。それは、神にささげものをしようとする者、神を礼拝する者たちの素朴な姿でした。
「あなたの神、主が与えられる土地から取れるあらゆる地の実りの初物を取って籠に入れ、あなたの神、主がその名を置くために選ばれる場所に行きなさい。」
神に約束された土地で収穫した初物をささげよう。そのために籠に入れるのです。籠は神さまにいただいた実りを見えやすく整えます。今の私たちの礼拝で献金をささげるように。興味深いのは、ささげようとするところで、自分たちは何者なのか確かめられるというわけです。私たちが神のものであること。これは誰にも邪魔されるものではありません。実りを神に感謝してささげるとき、自分の存在意義が失われることはないのです。神に与えられていると気づくからです。
おや?と思わされるのは、「あなたの神、主がその名を置くために選ばれる場所」と具体的な地名があえて避けられていることです。あのモーセが十戒を賜わったシナイのことも思い起こされていません。15節で「天にあるあなたの聖なる住まい」とも言われます。地上にある一つの神殿でしか礼拝できないわけではないということです。ユダヤの信仰共同体は、捕囚から帰還した者もいれば、残った者たち、あるいはエジプトでディアスポラとして生活している人々もいました。それぞれの地にあっても、私たちは、神を礼拝する一つの民だと思い起こすことができる。そういう姿がここで描かれています。さらに、この地の初物を直接、手にしていない者や、一時身を寄せている者まで、全ての人々が同じ共同体であって、与えられた恵みを共に喜び祝いなさいと言われています。そうして、信仰の告白をするのです。
「私の先祖は滅びゆく一アラム人であり、」
私たちの先祖は、さすらう者であった。最初から今の土地にいたわけではなく、この土地は神さまに与えられたものです。聖書の神は、土着の神ではないのです。しかも、エジプトで奴隷として苦しめられていた民を救い出した主が、今まさに私たちに恵みを与えてくださるから、ささげものができると感謝します。
今日、共に読まれた新約聖書で、伝道者パウロも、ささげものの話しをします。申命記を踏まえると、パウロは単に献金をささげよと主張しているわけではないようです。パウロは励ましています。
「だから、今それをやり遂げなさい。」
何をやり遂げるのか。少し前で、こう言われていました。
「愛する人たち、わたしたちは、このような約束を受けているのですから、肉と霊のあらゆる汚れから自分を清め、神を畏れ、完全に聖なる者となりましょう。」(二コリ7章1節)
どうでしょうか。聖なる者となる。これをやり遂げるのです。急に、うつむきたくなるかもしれません。でも、パウロは仮定の話しをしているんじゃない。
「完全に聖なる者になりなさい。」
完全に神の者になるということです。パウロは注意深く、ただやり遂げようとは言わない。
「自分が持っているものでやり遂げよう。」
私たち、しばしば、持っていないものに、目を奪われがちです。今は持ち合わせがないから…、自分は足らないものですから…。そう言い訳して気配を消そうとします。何かを成し遂げようとするとき、持っているものより、持っていないものの方が気になってしまうのです。けれども、そこで自分の存在意義を失わせていいはずはありません。神はあなたを見出しました。もう持っていない話は今日で捨て去りましょう。持っているものでやり遂げよう。持っているものに目を向けよう。
「あなたがたは、信仰、言葉、知識、あらゆる熱心、わたしたちから受ける愛など、すべての点で豊かなのですから、豊かな者になりなさい。」
私たちが神さまにささげものをするとき、既に与えられています。自ら惜しまずにささげようとするところで、神さまから惜しまず与えられていることが分かるようになります。これが私たちの礼拝です。礼拝で私たちは神さまからどれほど与えられていたかに気づきます。昔、ユダヤの人々が地の実りの初物を取って籠に入れたように、教会は天におられる神の恵みがこの地に満ちあふれているのを籠に集めていくところです。
(聖霊降臨節第5主日礼拝 7月8日 牧師 片岡賢蔵)
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